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厚生労働省へパソコン要約筆記者事業についてお願いに行きました

2006年7月13日、塩崎外務副大臣(現在は、内閣官房長官)に紹介いただいて、厚生労働省の寺尾室長にパソコン要約筆記者事業について、お願いをしました。

以下は、その概要です。

<概要>
日 時 平成18年7月13日(木) 15:30〜17:30
場 所 衆議院第一議員会館 7F 会議室

出席者 (敬称略)
<厚生労働省>
社会・援護局 障害保健福祉部 企画課 地域生活相談室
寺尾室長
橋爪室長補佐
青木情報支援専門官
情報支援係 冨原係長
<オブザーバ>
塩崎恭久外務副大臣(途中退席)
塩崎恭久事務所 川崎秘書
<ラルゴ>
栗田、矢野

内 容
1.コミュニケーション支援事業の説明(寺尾室長)
2.ラルゴの研究成果、お願い(栗田)
3.意見交換


<お願い>
以下が手渡した「パソコン要約筆記者事業に関するお願い」です。
他に「平成18年度パソコン要約筆記サークル「ラルゴ」研究論文集」IPtalk9Jの入ったCD−ROMを渡しました。

パソコン要約筆記者事業に関するお願い

趣 旨
1.パソコン要約筆記の連係入力は世界に誇れる日本独自の情報保障技術です。日本国内に普及させ、また世界にも発信してください。

1.今後の要約筆記者の養成、認定資格などの施策は、現状把握のみならず、将来予想も考慮して、適切に決定してください。

1.「地域生活支援事業実施要項」の(別記2)「コミュニケーション支援事業」の「4.留意事項」の「イ「要約筆記者」」に、「要約筆記奉仕員」とならんで「パソコン要約筆記者」を追加してください。

1.(別記9)「サービス・相談支援者・指導者養成事業」の「2.事業内容」に「(5)手話通訳者養成研修事業」とならんで「パソコン要約筆記者養成研修事業」を追加してください。またその事業内容には、「高速2人入力・時系列文処理、パソコン・ソフト操作などを習得したパソコン要約筆記者を養成研修する」と記載してください。

1.「パソコン要約筆記」と「手書き要約筆記」は、異なる技能が必要であるため、技能に関する「養成カリキュラム」と「資格認定方法」は、「手書き要約筆記」と別に策定してください。

1.同カリキュラムと認定方法の策定に当たっては、中立の研究所・調査機関を利用するなどし、全国を網羅した客観性のある情報、学識経験者による教育理論などに基づく意見なども参考とし、認定が公正に行われるよう留意してください。

1.付表の「コミュニケーション支援事業」の欄を「手話」「手書き要約筆記」「パソコン要約筆記」等に細分化して、「パソコン要約筆記」等の見込み者数を把握してください。


理 由
従来、要約筆記においては「要約筆記奉仕員」が養成、派遣されてきましたが、障害者自立支援法成立に伴い、コミュニケーション支援事業において「要約筆記者」が明記されることとなりました。要約筆記者が社会福祉サービスの担い手として認められ、身分、責任の強化が図られることにより、利用者である聴覚障害者(主に難聴者・中途失聴者)の社会参加促進が期待されることは誠に喜ばしいことです。
また、近年、要約筆記の分野においてはパソコン要約筆記が全国的に普及しています。このことにより、難聴者・中途失聴者は、従来の手話、手書き要約筆記に加えて、パソコン要約筆記を自己のニーズに合った情報保障手段として選択できるようになりました。
さて、従来は手書き要約筆記の延長として語られてきたパソコン要約筆記ですが、脳内情報処理のメカニズムや、必要とされる技術などの相違点が明らかになりました(添付資料)。従って、その養成には手書き要約筆記と共通化できる部分と、できない部分があると言えます。そのため、特に技術面において手書き要約筆記の延長として応用的にパソコン要約筆記者養成カリキュラムを策定する方法では、良質なパソコン要約筆記者の養成は期待できないと考えられます。
また、パソコン要約筆記がコミュニケーション支援事業に明記されていないため、手書き要約筆記より制度の整備等が遅れた場合、難聴者・中途失聴者がパソコン要約筆記者派遣を利用できない等の不利益が懸念されます。利用者が派遣制度を利用する際、手書きとパソコンを自由に選択する権利を保障するためには、パソコン要約筆記がコミュニケーション支援事業の中のサービスの一つとして位置づけられる必要があります。そのためには、「手書き要約筆記者」の養成研修、派遣事業だけでなく、「パソコン要約筆記者」についても養成研修および派遣事業の実施が必要と考えます。
今後も拡大すると予想されるパソコン要約筆記について、障害者自立支援法の下で後退、縮小することのないよう、ご理解、ご検討をいただければ幸いです。

(添付資料)
「平成18年度パソコン要約筆記サークル「ラルゴ」研究論文集」

上記の「パソコン要約筆記者事業に関するお願い」の中の「地域生活支援事業実施要項」などは、下記URLの「障害保健福祉関係主管課長会議資料(平成18年6月26日開催)」の「資料10−1:地域生活支援事業に係る主な変更点」「資料10−2:地域生活支援事業実施要綱(案)」「資料10−3:地域生活支援事業に係る障害福祉計画の作成について(案) 」を参照してください。

http://www.wam.go.jp/wamappl/bb15GS60.nsf/vAdmPBigcategory50/6F2EDA2437ADBE374925719A000BE847?OpenDocument


「ラルゴの研究成果」については、以下のパワーポイント資料などを使用しました。

話しを聞いて文字にすることは、手書きとパソコン要約筆記と同じでも、キーボードを操作することが、要約などの脳内作業に影響を与えていることを説明しました。
 
パソコン要約筆記の1人入力は、上で説明した困難さを伴う高度な入力方法であること、それが同時通訳と同じ脳内作業であることを説明しました。
 
2人入力は、上で説明した困難さを解決するために日本で独自に発達した非常にすぐれた入力方法であることを説明しました。
 
パソコン要約筆記のキーボード入力の技能は、はやとくんやスピードワープロに近い専門性を有していることを説明しました。
 
入力速度と入力方法・要約方法との関係を説明しました。入力速度が手書きとパソコンは大きく異なるので、必要とする要約技法や入力方法が異なることを説明しました。
  
パソコン要約筆記が通訳に非常に近い技能を必要としていることを説明しました。
  
パソコン要約筆記と手書き要約筆記は、必要とされる技能が異なるため、養成方法や資格認定は分離することが妥当であるという説明をしました。

<厚生労働省からの回答要旨>

厚生労働省からの回答要旨 (07年1月4日追加掲載)
@コミュニケーション支援事業の「要約筆記者」とは「従来の要約筆記奉仕員」のことを意味し、新しい資格を作ることは、当面の間、考えていない。
「者」は、一般名詞としての「人」を意味。
全難聴には年初より何度も、このことを説明している。(注1)
6月に行った主管課長会議においても「要約筆記者」とは「要約筆記奉仕員」と説明している。

Aしたがって、「要約筆記者」という記載があることを理由に、新しいカリキュラムを通達することはない。

Bラルゴの「お願い」は判ったが、予算の制約などもあり、約束できない。

Cまず全国の実態調査が必要。自立支援法の施行後は、地方自治体(県、市町村)を使って調査できる。来年度には行いたい。
(注1)
この点の事実関係を確認するために掲載が遅れました。
06年12月30日、厚生労働省と面談した全難聴の方と意見交換をする機会を持ち、確認が取れたため掲載します。
意見交換は「個人の立場」で行われたため「全難聴の公式見解」ではありませんが、その方の立場から事実と判断しました。
 


<意見交換>
寺尾室長から、ざっくばらんにいろいろなお考えを伺いました。
我々が考えていた以上に、厚生労働省が、パソコン要約筆記について、全国の状況(いろいろな意見)を把握していることに驚きました。
しかし、残念ですが、それらについては、(あまりにざっくばらんにお話しいただいたため)ホームページには掲載できません。

ラルゴからのお願いの趣旨についてご理解いただき、現状をよく調査し、前向きに検討していただけるという感触を得ました。
状況認識やこれからの展望について、多くの部分で共通認識を持っていると感じたことは、今後に希望を持つことができました。
ただ、厚生労働省のおかれているいろいろな制約の中では、近い将来の施策は、寺尾室長の理想とはかなり乖離があるであろうことも容易に想像できました。
厚生労働省には、今後も是非ともがんばって国民の期待に応えていただきたいと思いました。

<塩崎さんについて>
当日は公務ご多忙中の中、外務副大臣の塩崎さん(現在は、内閣官房長官)に、我々のために貴重な時間を割いていただいたことに非常に感激しました。

聴覚障害者のために塩崎さんからご支援をいただくのは、これが初めてではありません。
知る人ぞ知る、聴覚障害者のための「リアルタイム字幕配信事業」の実現には、塩崎さんの大きなご支援があったのです。

1998年、Nifty Serve(当時)の字幕RT(チャット)では、聴覚障害者もテレビドラマを楽しめるようにと、テレビの音声をリアルタイムで入力することが行われていました。
ところが、それが著作権法に抵触すると日本脚本家連盟からクレームがついたのです。
いろいろな方たちが、聴覚障害者のために日本脚本家連盟の理解を得ようと努力しました。
(IPtalkの「確認修正パレット」は、その時、字幕に責任を持つ人のチェックを可能とするように、NHKの音声認識による方法の「ディレクターのチェック」を模倣して作った機能でした。)
そのような1999年、塩崎さんは、字幕RTのデモを実際に見て、このような活動が聴覚障害者に必要であると理解され、著作権法改正を検討していた文化庁に働きかけていただいたのです。
その後も、陰に日向に塩崎さんにはご支援をいただき、みなさんもご存じのとおり、2000年著作権法改正、2001年のリアルタイム字幕配信事業開始とつながって行ったわけです。

以下のURLは、塩崎議員のホームページ
http://www.y-shiozaki.or.jp/

<掲載が遅れたことに関して>
自立支援法の施行前で、要約筆記に関して、全難聴・全要研でいろいろ議論している途中であったため、1サークルが厚生労働省と直接コンタクトしたことを公表することが好ましくない影響を与えることを懸念しました。
状況が安定するまで公表しないということで、厚生労働省、ラルゴで意見が一致しました。
そのようなことがあり、今日まで公表を控えていました。

06年12月13日 栗田


更新履歴
06年12月13日 掲載
07年1月4日 「厚生労働省からの回答要旨」の項を追加掲載


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