2007年10月13日〜15日
秋田県の「第7回全国障害者スポーツ大会」(秋田わか杉大会)のパソコン要約筆記の様子


 多くの人々に感動を残して幕を閉じた「秋田わか杉大会」では、各会場でボランティアとして活動する人たちがたくさん目につきましたが、中でも、競技場に隣接して設けられた「ふれあい広場」のステージコーナーで、高校生が「パソコン要約筆記者」として懸命に入力する姿が印象的だったようです。

 大会から早1ヶ月、この高校生ボランティア誕生に関わりのあった者として、今、わか杉大会を振り返っています。

 ふれあい広場は、全国の選手団を温かく迎え、障害のある人もない人も、交流やふれあいを通じて、障害に対する理解を深める、大会競技場とは趣を異にするお楽しみゾーンとして、どの大会でも毎年開設されています。

 今回の秋田では、
 ―「きっと出会える!夢と感動」の大会スローガンのもと、来場されるすべての方々が夢と感動を頒かちあえる広場となるよう、秋田ならではの伝統文化とまごころでおもてなしいたします。ぜひ、お越しください― 
と呼びかけて、大々的なテント村が出現しました。
ステージコーナーは、県民参加による歌、音楽、ダンス、人形劇、昔話などを披露の他、タレントによるコンサートなど、盛りだくさんの内容で、期間中の連日、超満員の賑わいでした。

 パソコン要約筆記は、聞こえない方、聞こえにくい方のために、歌の歌詞や司会者のおしゃべりなど、その場の音声をキーボードで入力し、文字に変えてスクリーンに流す文字通訳のボランティアです。
要約筆記者の少ない秋田では、わか杉大会に備えてたくさんのボランティアの養成が必須の課題でした。

 しかし、一般からボランティア募集の段階で、パソコンコースへの応募が極端に少なかったため、急遽、高校生に応援を求めることになったことが高校生のパソコン要約筆記ボランティア誕生につながりました。
これまでの大会で、大学生や専門学校生のパソコン要約筆記活動例はありましたが、高校生の起用は今大会が初めての試みと聞きます。
それほど珍しかったのでしょう。
全国に少なからずいる要約筆記関係の友人知人からも反響があり、質問や激励などもいただきました。

 高校生にボランティア活動に参加してもらうことはとても喜ばしいことである、と概ね歓迎の言葉でした。

 こういう形で、手話と比べてまだまだ社会的に周知されていない要約筆記を広め、知ってもらうだけでなく、ひいては難聴者・中途失聴者と呼ばれる聴覚障害を持つ人たちへの理解を深めることにつながり、意義が深いこと、がんばってほしい、などなど―。

更に、来年度開催の大分県はもちろんのこと、数年後に全国障害者スポーツ大会を控えた県の友人からの質問もありました。

 その人のサークルでは、中学校で要約筆記などのコミュニケーションについて出前講演をしているらしいのですが、今の中学生が、ちょうど高校生の時に開催になるので、中学校で話をするとき、秋田の高校生が全スポの情報保障をしたことを伝えて、「あなたたちもがんばってね」と、話したいようでした。
 参考になるような、新聞記事やサイトなどがありましたら、教えていただけませんか、というものでした。
残念ながら、手探りの試行錯誤で進めたことで、その質問に答えることはできず、ただ、この点に関してとか、このような場合はどうしたのかなどというように、具体的な質問でもあれば、お答えできることもあるかもしれませんが、としか返事をすることができませんでした。

 商業高校の生徒さんたちと私のパソコン要約筆記を介したおつきあいが始まったのは今年の五月下旬のこと。
初めて訪ねた校舎で、すれ違う私に、生徒さんたちは総じて礼儀正しく、明るく、はきはきとあいさつの言葉をかけてくれるのでした。

講座では、「要約筆記とは何か」という初歩から伝えることになりますが、ふつう、年次計画で取り組んでやっと一人前と言われるパソコン要約筆記ですから、これからではどう考えても時間が足りません。
必要最小限に絞って進めることにしましたが、その前にまず直面したのは、使用するパソコンの問題でした。
パソコン要約筆記にマイパソコンは不可欠ですが、高校生にそれを要求するわけにはいきません。
大会終了まで貸してもらえるように、県の大会局から調達していただき、難渋はしましたがなんとかクリアはできました。
しかし、入力した画面をスクリーンに表示するためには、入力用のパソコンだけでは足りません。
入力機のほかに、表示専用のパソコンを中継に使う必要がありますが、こちらについてはとうとう最後の最後まで解決できずに涙をのみました。
しかも、本番の初日準備中に、表示機に使うつもりで持参した自分のノートパソコンを、あろうことか落下させてしまうという悪夢のようなアクシデント。
このためにわざわざ新規購入したVistaでしたから、泣くに泣けないけれど、本当に泣きたい出来事でした。

 集まった36名は最後まで全員熱心に取り組んでくれました。
若いだけにその吸収力や理解力には目を瞠るものがあり、入力はもちろん見事で大いに期待できました。
反面、パソコンを学校に置いて帰るため、週一回の放課後の2時間、その時だけしか要約筆記に向き合ってもらえません。
それは学業優先の高校生であれば当然のことでしょう…が、ちょっと残念なことでした。

 それにしても、一度も要約筆記の現場を見たことがない高校生にとっては、いくら説明されても現場のイメージを描くことは困難だったと思います。
しかも、ステージのプログラム詳細が直前まで決まらず、情報不足が祟って、本番を想定した練習をしたくてもできません。
それでも、その日は否応なく迫りました。

 入力者用のテントが狭く、全員入れないため、1日20名で3日間のローテーションを組み、大会に臨みました。
リハーサルができなかったことは大きな痛手となり、かなりの苦戦を強いられましたが、その3日間、高校生の皆さんは本当によくがんばってくれました。
 大会を経て、全員に大きな力はつきました。

もし次に、要約筆記の現場に出る機会があれば、その力を遺憾なく発揮することでしょう。
今すぐにその様な場面はないかもしれません。けれども、もしかしたら、この30人の中から1人でも2人でも未来の要約筆記者が出ないとも限りません。
これから先の長い人生の中で、何かの機会に、このわか杉大会で経験した要約筆記が役に立つ場面でもあったなら、これに優る喜びはありません。
 私自身は、孫のような彼女らと親しく触れあえて、楽しくもあり、新しい発見も多かった5ヵ月間に感謝しています。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

写真と文は、福原さんに提供していただきました。